コラム マネー侃々諤々
関 和馬
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第6回 ニューヨーク「狂騒の20年代」
11月中旬に1週間の日程でニューヨークに渡航してきた。ニューヨークは初めてだったが、渡航の理由は「トランプタワーを拝むこと」、要は純粋な観光目的である。インフレと為替(円安)によって欧米の物価は高いというのは散々ワイドショーなどでも取り沙汰されているが、自身が経験するとやはり痛烈だ。
率直に言って、安いモノが一つもない。ラーメン1杯20~30㌦(約3,000~4,500円)、ステーキとワイン数杯で240㌦(約40,000円)、ナイトライフでUber(配車タクシー)を使うとたった2㌔の距離でも25㌦が請求される。もはや笑うしかない。旅の終盤にもなると感覚が狂ってきて、1杯20㌦のラーメンなどとても安く思えてくる。ディナーが1人50㌦で済めば完全にラッキーだ。
強行スケジュール(日帰り)でワシントンD.C.にも行き、アーリントン墓地(正確にはバージニア州)、朝鮮戦争戦没者慰霊碑、リンカーン記念堂、ホワイトハウス、国会議事堂、スミソニアン博物館などを見学した。途中、デラウェア州のバイデン・センターに立ち寄ったことも良い思い出である。ワシントンD.C.は2025年1月のドナルド・トランプ次期大統領の就任式の準備のため、あちらこちらが工事中、慌ただしい様子であった。また、近年はワシントンD.C.の治安が悪化していると現地の人から聞いている。
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ニューヨークの街並み
ニューヨークは「人種のるつぼ」というだけあって、他の地域よりも明らかに多民族性があった。ラテン系やインド系、中華系の存在感は圧倒的で、他にもネパール人やクルド人、エジプト人が多かったのが印象的である。また、K-POPの影響もあってか韓国人や韓国エンタメの台頭が感じられた。それに比べると日本人の存在感は確実に薄いが、やはりJ-POPが健闘している。人よりもコンテンツや食の面で日本の存在感は高い。
日本食に関しては、明らかに中国や韓国の資本で経営されている店が多く、日本食というブランドが良いように使われてしまっていると感じる。ムスリムの「ハラル認証」ではないが、きちんとした日本食には政府がお墨付きを与える制度などを導入しても良いはずだ。
それとこれはニューヨークに限ったことではないが、米国ではやはりホームレスの多さや格差の存在が気になる。「活気がある」という言葉を通り越して、「カオス」(混沌)という言葉の方がニューヨークにふさわしいと私は思うが、結局のところバブルの疑いもぬぐい切れない。
今が、「狂騒の20年代」の再来だと言う人もいる。著名投資家のエド・ヤルデニ氏などがまさにそうだ。 そこでニューヨークのホームレスの多さを見ながら私はチャーリー・チャップリンの逸話に思いを馳せたのである。
ニューヨークの株価が暴落する前の1928年、そう株価が現在と同じような熱を帯びていたときのこと。その当時、コメディアンとして著名なチャップリンはニューヨークの街並みを見渡した際にある疑問を抱いたという。「永遠の繁栄」(後に狂騒の20年代と呼ばれるようになった)と謳われていたのにも関わらず、街中で多くの失業者を見かけたのだ。この光景に不信を抱いたチャップリンは、持ち株を全て処分するという行動に打って出る。この行為にチャップリンの友人であり著名音楽家のアーヴィング・バーリンは「米国を空売りする気か!」と大激怒。しかし、ブラック・サーズデーの翌日にチャップリンの元を訪れ謝罪したという。
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ニューヨーク証券取引所
米国の都市を訪れるとどこも過熱感が否めない。「私たちは狂騒の20年代を生きている」――そう改めて思わせるようなニューヨーク渡航であった。

関 和馬(せき・かずま) 経済アナリスト
第二海援隊戦略経済研究所研究員。米中関係とグローバル・マクロを研究中。