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御厨 貴氏インタビュー(全3回)
自民党・石破新総裁で日本はどうなる

「裏金議員」への厳しい方針を打ち出した石破自民党新総裁に、野党はどんな戦いを挑むのか。

政治・外交

第3回 解散総選挙 揺れる自民党 野党はどう対峙するのか

 石破茂首相は10月9日、衆議院を解散し、事実上の総選挙(15日公示、27日投開票)が始まりました。解散直前に派閥の政治資金パーティ―裏金事件で不記載のあった自民党前職に関して、比例代表への重複立候補を認めず、一部前職12人については小選挙区での公認もしないとする石破首相の方針に対して、党内では不満と困惑、歓迎の入り混じった声が漏れ聞こえます。立憲民主党や日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党は党首討論後、石破内閣に対する不信任決議案を提出して対抗。与野党が一斉に走り出す中、衆院選の結果如何では、「党内基盤が脆弱」とされる石破・自民党の最初の試練となり、早くも党内政局になる可能性も捨てきれません。また、自民党との連立を長年組んできた公明党をはじめ、野党第一党の立憲民主党もトップが代わって初めての国政選挙です。重複立候補制度の是非や共闘のあり方などについて、長く日本政治の歴史を見据えてきた御厨貴・東大名誉教授に聞きました。

御厨 貴(東京大学名誉教授)

◇「裏金議員=非公認」の大転換 禍根残り党内政局、「分党」も
──直近の報道各社の世論調査による内閣支持率が歴代内閣よりも低く、「裏金議員」へ厳しい対処を求める世論を受けて、直前まで「原則公認」で調整していたとされる石破首相の方針が変わりましたね。

御厨 あれは、石破さんが森山裕幹事長を押し切った形だろうね。当初は、組閣後すぐの解散・総選挙日程など森山さんの言う通りにしていたのに見事にひっくり返したように映りますね。岸田文雄前首相が突然「派閥解消」を言い出したのと同じで、自民党は派閥がなくなったり弱体化してしまったりして、従来の調整能力が欠けてしまったわけです。かつてだったら、一度決めた方針を覆す、ということはまずあり得なかった。要するに、これからも決めた事項をひっくり返しても良いという前例ができてしまった。もう何でもありの世界になったとも言えます。


派閥の政治資金パーティー裏金事件で不記載があった「裏金議員」の比例重複、非公認とする方針を巡って、自民党内は激震に見舞われている。

──石破さんはよく踏み切りましたね。

御厨 最後は賭けに出たんだな、ある意味でよく決断したと思います。(非公認と比例代表重複立候補を認めないことで、選挙基盤の弱いとされる「安倍チルドレン」ら)安倍派候補が続々と落ちれば、石破さんにとっては敵が少なくなると見たのでしょう。逆に言えば、同僚に嫌われる。だから、どれだけ総選挙で議席数を確保・維持できるか、その中身が大事になってくる。中でも、どの勢力が一番伸びて弱まるか、そこがポイントになってきますね。石破内閣が単なる選挙管理内閣で終わるか、それとももう少し続くかの分かれ目になってきます。

──公明党も、自民党が公認しない候補に関しては、従来の「推薦」を見送る考えを示しました。

御厨 公明党はいつもそういうところでは、割ときちんと線を引きますからね。

──となると、「裏金議員」の比例代表への重複立候補を認めず、安倍派を中心とした12人については非公認とする方針によって、現職だった候補者にとっては随分と厳しい戦いになることが予想されますが。

御厨 越智隆雄元副内閣相(衆院比例東京ブロック)が早くも衆院選への不出馬を表明したでしょ。勝てるかどうか分からない選挙に資金を使うのはもったいないと思ったのかもしれないですね。しかし、やっぱり恨み辛みが残るもんなんだよ。石破さんはそれをどう処理してゆくのか。政治の世界は必ず意趣返しはありますからね。だけど、直接それが“石破おろし”につながるかどうかはまだわからない。その点で言うと、(総裁選決選投票で敗れた)高市早苗さんは高みの見物でしょう。

──連載1回目のインタビューで、早々とイデオロギー色の強い高市さんを中心とした「純化」路線によって、自民党が右旋回して「分党」する可能性に言及されていました。その点について、石破内閣のある閣僚は、私の取材に対して「その方がすっきりする」とも語っています。

御厨 やっぱり総裁選の最初の投票では高市さんが勝っていたからね(181票=国会議員票72+党員・党友票109▽石破さん 154票=国会議員票46票+党員・党友票108票▽小泉進次郎さん 136票=国会議員票75+党員・党友票61)。勝っていた選挙で、結果的に負けるのは、ものすごく怨念が残るんですよ。福田赳夫総理・総裁に、大平正芳幹事長が挑んだ1978年の総裁選が想起されます。結局、福田さんが予備選挙で負けてしまって(記者会見で「民の声は天の声と言うが、天の声にも変な声もたまにはあるな、とこう思いますね。まあいいでしょう、今日は敗軍の将、兵を語らずでいきますから」と語って本選出馬を断念、退陣し)、その後の「大福戦争」と呼ばれる党内抗争が続いたでしょう。

 今回の投票結果を見てみると、高市さんを支持した地方の党員・党友が多かったでしょ。ああいうイデオロギー色を拒絶するのではなく、受容する雰囲気が生まれつつあるような気がしましたね。だから、「すっきりする」という言葉の意味は、党が割れる、ということだよね。その上で、立憲民主党代表の野田佳彦さんがどう選挙戦略をどう打ち出してくるか、という話になるけれども、野党間の選挙区調整もうまく進んでいないし、このままの状態では、野党が大勝ちする結果になるとは思えない。いずれにしても、選挙期間中に有権者の気持ちも変わってくるだろうから、その意味でも今回の選挙戦は先々を考える意味でも重要になります。

「政治不信」が高まる中、有権者は一票に何を託すのか。

◇「重複立候補取りやめ」が、選挙制度見直しにつながる可能性も
 僕がもう一つ考えているのは、今回の「重複立候補」をやめさせることの意味合いです。平成初期(1996年)の政治改革で導入された(候補者個人に投じる小選挙区選挙と、政党に投票する)比例代表制選挙との重複立候補によって、小選挙区で落ちた人が比例代表で復活当選するのは、やっぱりおかしいのではないかと。その是非が改めて問われてくるのではないかと思います。野党側も比例復活当選が多いので、なかなか言い出しにくいだろうけれど、改めて選挙制度を考える契機になると面白いね。

──石破首相は所信表明演説では、総裁選で主張した「アジア版NATO」などには言及しませんでした。さらに衆院選の主要争点を問う前哨戦とも言える国会代表質問においても、「石破色」を封印し、現実路線で臨みましたが、どう映りましたか。

御厨 たくさんのヤジに加えて、お手並み拝見のような拍手で、冷たい雰囲気の演説でしたね。石破さんにしても、僕はもう少し総理大臣らしく振舞うのかと思ったら、普通の議員と何ら変わらない様子で、すたすたと登壇し、勝手にしゃべりまくっていて、あれにはちょっと驚いた。長く日の当たる場所にいなかったからかもしれないけれど、普通ならば、もう少し総理大臣らしくなるもんだけどね。また、所信表明演説の内容についても、総裁選で主張した内容に触れずに妥協して、石破カラーを修正した。代表質問で野田さんとの問答も逃げている印象を受けましたね。もう、守り一辺倒だった。

◇安全運転では突破できぬ “裏金追及”すれば、人気も出るはずだが
──いわゆる安全運転だったと。

御厨 もう石破さんは破れかぶれになった方が人気が出るのにと思うんだよね。何を守っているのか、ということですよ。最終的に議席が過半数に届かなかったらどうするのか、と。悔いが残りますよ。彼も結局、長く総理・総裁をやることを考えてしまっているから安全運転に徹しているのだろうけれど、“徹底的に裏金の追及をする”とか、それ一つで、自民党は変わった、と言えるのに、そこまでの自信がないんだな。いかんなぁ、というのが僕の印象です。兎にも角にも、総選挙が終わって、もう一度、石破さんが内閣を作れる状態にならないと、自民党はどうにもならないわけです。

◇自公連立政権も節目の時期に
──1999年10月5日以降、25年もの長きにわたって自民党と連立政権を組んできた公明党の代表が、9月28日の党大会を経て、山口那津男さんから幹事長だった石井啓一さんに代わりました。自公間ではこのところ、さざ波が起きていると指摘されていましたが、総理・総裁も交代したことで連立政権の雰囲気も変わるでしょうか。

御厨 変わると思います。前代表の山口さんは大したもので、(熟議を標榜する)参議院議員であることも影響していると思うけれど、全体を上手にまとめていた。基本的に公明党は、安倍さんが向いている方向には必ずしも付いていきたくないという面がたくさんありました。そういう政策面について、いつのまにか反対者をなだめて、ここまでなら許容できるというラインまで持ってゆけたのは、山口さんの力でしたね。

 そういう姿勢について、石井さんは見てこられたと思う。でも、山口さんから石井さんに代わるという意味合いをよく考えてみると、公明党内部にこれまで自民党に譲り過ぎていたのではないか、という気持ちがあって、石井新代表としては、そうした不満を抱えながら党運営をやってゆかなくてはならない。つまり、次は石井色を出さなくてはいけないわけです。

 もう10年以上、山口色が公明党のイメージとして染まっているので、これを塗り替えるのはなかなかキツい。しかも、本来の公明党のあり方からすると、「平和の党」とは異なる方向へと進んでゆかざるを得ないとしたら、どうやって皆を納得させるのか。石井さんにとって最大の課題になるんじゃないですか。山口さんのスタイルは、そこは何とか、というような暖簾に腕押しみたいなところがあって、柔軟な感じで上手にやっていたけれども、石井さんはちょっと硬いイメージがあるからね。やっぱり今までとは関係性が変わるのではないかと思います。

──かつて公明党は“どこまでも自民党に付いてゆくしかない下駄の雪”と揶揄されましたが、これからの公明党が大いに存在感を示すこともあり得ますか。

御厨 一矢を報いるみたいな場面があるかもしれませんね。山口代表時代には、一矢を報いるところまでゆかずに、最後にうまく妥協点を探ったんですよ。


候補者の「声」は、きちんと有権者に届くのか。有言実行が求められる。

◇立憲民主・野田代表 「昔の名前」のイメージを払しょくできるか

──9月の自民党総裁選に並行して行われていた立憲民主党代表選では、かつて民主党代表だった野田佳彦元首相が、枝野幸男元官房長官と現職の泉健太代表(当時)、衆院1期目だった吉田はるみさんを破って、代表に返り咲きました。一連の政策論争を聞かれた印象はどうでしたか。

御厨 (松下政経塾出身で日本新党─新進党などに所属した)野田さんの経歴も含めて、一番保守に近いよね。だから自民党からしたら、野田さんならば“安心できる”というところはある。それは他の3候補者とは違う部分でした。だから、野田さんとしてはそういう立ち位置を狙いたいはずです。自分が次の総理大臣候補であるという自負心もおありだと思います。ただね、自民党との似姿で出た時に、国民がじゃあ今度は野田さんに期待して政権交代を実現させよう、というふうに期待が高まるかというと、その動力にはならないような気がします。やっぱり野田さんも、昔の名前で出ている人であることに変わりはない。かつて総理大臣をやって、しかも見事に大敗してしまったわけですからね。もちろんあの時かなり自民党と近い戦場でいろいろ政策協議なんかやったんだけど、最終的に負けは負けです。そのイメージを払拭できるかどうかという課題は、やっぱりつきまとうでしょうね。

──しかも、野田さんの選対陣営には「大ベテラン」小沢一郎さんが注力していました。

御厨 だからね、こういう場面に小沢さんがまた出てくるというのも、ああ、と古い政治を想起させますね。小沢さんが出てくる意味合いは、自民党との間で再び同じようなことを繰り返すのかね、ということも考えてしまいます。決選投票で争った枝野幸男元官房長官の方が、そういう点では違ったでしょう。加えて3年間代表を務めた泉健太さんは揺れることもあったけれども、彼はいろいろなことを検討していたと、僕は評価していました。そもそも、現職なのに立候補するにも苦労したという状況はどうなのかと思いました。人材がいるようでいない感じがするので、立憲民主党が今後どうなってゆくのかを見守りたいですね。

──国民民主党の「合併」話もくすぶっていますし、日本維新の会や日本共産党との連携のあり方など問題は山積しています。

御厨 そうですね。だから維新も(県議会での不信任案可決・失職、出直し選挙になった)兵庫県知事の問題でミソをつけているけれども、関西圏を除けば、思うように伸長してゆかないでしょう。維新を含めて伸び悩む野党がどう活路を見出すのか。自民党も先行きが厳しいけれども、野党の方はもっと難しい状況にあります。民主党が(2012年12月に)政権を失って10年以上になりますが、現在の立憲民主党が政権奪取に近いところまで来ているという状況では全くありませんからね。

 そもそも「選挙で勝って」と言うけれども、選挙で勝てるだけの球を出せない。敵失を狙うと言っても、今の自民党が割れる可能性はまだ小さい状況ですからね。ましてや小選挙区制度下ではなかなか割れにくいですから。そうした中で状況をどう変えてゆくのか。いろいろ自民党批判を展開しているけれども、民主党政権実現のきっかけになったマニフェストを出した時の勢いは全くありませんからね。そこへ立ち返る努力をしないといけない。前回はゼロの状態から政権を奪取しましたが、今回は基礎数があるわけです。そこから政権を取るためにも地道な努力をして、頑張っているから今度は立民に入れてみようかと、国民をその気にさせられるかどうかに掛かっていますね。

──選挙共闘においても、立憲民主党内では共産党との連携のあり方について温度差があります。

御厨 全野党共闘はなかなか難しいでしょう。言うべくして行い難いのは、共産党と連携しようとすると、必ず「立憲共産党」と言われるわけで、そこは難しいですよ。共産党も変わっていけば違うと思うんだけど、相変わらずそのままですからね。


山積する問題について、国会での熟議が期待される。

──田村智子さんが初の女性委員長になったとしても印象は変わらずですか。

御厨 変わりませんね。だから共産党とどう組むかというのは立民の最大の課題です。一長一短あって、簡単に良い回答は出ません。

──連合との関係性も盤石とは言えそうにありませんね。

御厨 連合ははっきり、共産党と切れ、と言いますから。どちらを取るかと言えば、それは連合にお願いするだろうと。いずれにしても対共産党の関係性が野党にとって一番難しい問題なわけです。

──新政権が船出するにあたって、目を外に向ければ、11月には米大統領選があり、民主、共和両党のどちらの候補がなるか予断を許しません。ハリス副大統領、トランプ前大統領のどちらが就任しても、日本の対米関係の舵取りは難しそうですね。

御厨 民主、共和、どちらが大統領になったとしても相当程度、日本にキツいことを言ってくることは間違いない。防衛しかり、経済しかりです。どの問題もそうです。それらの要求に対して、唯唯諾諾と受け取るのではなくて、日本なりの構想を持って対抗してゆく必要があります。米国から何か買うのを増やすとか、予算を増やすとか、そうした個別の問題ではなくて、日米の未来の可能性をきちんと議論する。その大きな議論の中で今回はこういうふうにしましょうとやらなければ、恐らくどんどんどんどん、米国がいろいろなことを突き付けてくるでしょう。これまでも日本がやってきた方式を繰り返していると、これは破綻してしまいますよ。

──衆院解散・総選挙(10月15日公示・27日投開票)を経た新政権のもとで、来年の戦後80年の節目を迎えることになります。

御厨 新政権が担うのはほぼ間違いないわけです。戦後80年の節目にあたって、日米、日中などの関係をどう捉えて今後どうやってゆくのか。根本論という大きな議論を、次の内閣は求められている。それにふさわしい布陣を組んで、全力で取り組むことを望みます。
(取材・構成 中澤雄大)

【略歴】
御厨 貴(みくりや・たかし)
東大名誉教授。1951年生まれ。東大法学部卒業、東大助手、東京都立大助教授・教授、政策研究大学院大学教授、東大教授、放送大学教授、青山学院大学特別招聘教授などを歴任。専門は政治史、オーラル・ヒストリー。TBSテレビ「時事放談」の司会も長年務めた。
主要著作に『明治国家形成と地方経営 1881~1890年』(東大出版会、1980年)、『政策の総合と権力 日本政治の戦前と戦後』(東大出版会、1996年、サントリー学芸賞)、『馬場恒吾の面目』(中央公論社、1997年、吉野作造賞)、『オーラル・ヒストリー 現代史のための口述記録』(中央公論新社、2002年)、『権力の館を歩く』(毎日新聞社、2010年)など多数。

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