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コラム マネー侃々諤々
関 和馬(経済アナリスト)

上海・浦東新区のビル群=関和馬撮影

コラム

第11回 上海で見た都市としての進化

 このGWを利用して、6年ぶりに上海へ行ってきた。2010年に初めて上海へ行ってから訪中は相当な回数にのぼる。今までに南京に成都、深センや海南島などを巡ってきた。
 なかでも上海はお気に入りの場所で、その最大の理由は何と言っても「近い」から。わずか3時間ちょっとで中国最大の経済都市に着くというのは代えがたい魅力と思っている。
 上海は世界第2位の経済大国のトップ都市ということもあり変化が速い。ましてや6年ぶりの訪中である。実際に上海では都市としての変化を多く目の当たりにすることができた。

 まずは環境面。これは2019年のときもうすうす感じてはいたが、上海の大気汚染はかなり改善されており、日によってはもはや東京と同レベルに空気が澄んでいるように感じる。街中や施設で見かけるゴミ箱も以前と違って分別が徹底されておりポイ捨ても確実に減った。
 上海は中国国内においてその発展と環境面でモデル都市と言える。租界(外国人居留地)の存在という歴史的な観点からしても、上海は他の都市と比べて明らかに先進性があり、その発展ぶりには目を見張るものがある。金融街である浦東新区のビル群はニューヨークのマンハッタンを超えると評する人もいるほどだ(夜景のギラギラ具合では確かに勝っている)。ヒラリー・クリントンが国務長官だったときにこの上海の発展ぶりを目にしてから中国を警戒するようになったという逸話もある。

 こうした上海の発展ぶりは国威発揚につながる。現在の中国では国内旅行が娯楽の定番となっており上海も行先としての人気が高い。田舎から来た人が上海の発展を目の当たりにすれば確実に愛国心がくすぐられるだろう。それと同時に環境や民度の先進性も見習ってほしいという政府の思惑もあるに違いない。
それと上海の街中は東京ほどではないにしろ外国人の姿が目立った。なかでも韓国人が多い。それも若者が多く、そこら辺で韓国語が飛び交っている。実際、今の韓国ではビザ免除をきっかけに中国旅行がブームになっているようだ。ほかにもロシアやインド、アフリカ系の人が多くいる。肝心の日本人は出張や上海ディズニーランド目的の旅行者を少し見かけたが以前よりかは圧倒的に少ない。行き帰りの飛行機もほとんどが中国人という状態である。
次にテクノロジー。中国のリープフロッグ(新興国によく見られるカエル跳び現象)は有名だが、基本的にスマホと通信アプリのWeChat(微信)さえあれば何でも済んでしまう。今回、たまたま同期間に開催されていた上海モーターショーにも足を運んだが、そのチケットや身分証明などもWeChat内のミニプログラム(小程序)で完結した。このミニプログラムとはWeChatの中で動く小さなアプリのことで、いちいち個別のアプリをダウンロードしなくともありとあらゆるサービスを受けることができる。

紅旗の天工05=関和馬撮影

BYDの海豹06GT=関和馬撮影

 こうした利便性の進化を文章にするのは大変だが、米国のイーロン・マスク氏がこのWeChatの成功を模倣しようとしていることからも中国のソフト面の充実ぶりは明らかだ。
それは車の内装からも窺い知れる。現地の配車アプリDiDi(滴滴)を使った際にいくつかのEVに乗ったが、どれも車内のタッチパネルの存在感が凄い。そこに新興AIのディープシークが搭載されていたりと、利便性は格段に上がっている。運転手はAIと話し、行先や近道を聞いたり空調の温度をAIに調節してもらっていた。助手席の前のタッチパネルでは動画アプリなど様々なコンテンツがあり長距離ドライブも飽きさせないような仕立てになっている。
DiDiの運転手は一様に日本車を褒めてくれて嬉しかったが、EVやPHVといった新エネルギー(新能源)車の分野では中国が世界で一番だと豪語していた。ちなみに旧友の陸さんに聞いたところ、上海では新エネルギー車の割合が4割くらいだと言うが、見た感じだと7割を超えているように思う。こうしたこともあって空気が綺麗になっているようだ。

【略歴】
関 和馬(せき・かずま) 経済アナリスト
第二海援隊戦略経済研究所研究員。米中関係とグローバル・マクロを研究中。

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