コラム マネー侃々諤々
関 和馬(経済アナリスト)

第10回 関税ショックは単なる“序章”か
足元、米国のドナルド・トランプ大統領が発表した関税によって急速に株価が下げている。日経平均株価は4月7日、昨年8月5日の令和版ブラック・マンデーの安値31156.12円を下回る30792.74円を付けた(終値は301136.58円で過去3番目の下落幅)。
短期的な株価の値動きを予想するのは至難の業だが、少なくとも今回の関税による世界的な混乱はあくまでも序章に過ぎない恐れもある。
以前であれば株価を気にしていたであろうトランプ氏は「何かを直すためには薬を飲まなければならないこともある」と株価をそこまで重要視していない姿勢を示した。そのため市場はどっちが先に音を上げるかというチキンレースに突入している感もある。
もしトランプ氏がこのまま関税を取り下げなければ、米国経済がリセッション(景気後退)に突入するのは時間の問題だ。よく言われているように、関税によるサプライチェーン(供給網)の再構築はインフレ圧力を生む可能性が高い。
直近は米国債のパニック買いが起こっており金利は低下しているが、関税でインフレ再燃というシナリオは十二分にある。そうなるとFRB(米連邦準備制度理事会)は利下げに二の足を踏み、米国経済は不況下のインフレというスタグフレーションに陥りかねない。
今までの常識で考えれば、人為的な暴落を反省したトランプ氏が「関税、やっぱやーめた!」と言って世界に平穏が戻りそうだが、現在のような過渡期には我々の世代で経験してこなかった出来事がいとも簡単に起こり得る。
著名投資家のレイ・ダリオ氏は少し前、「私を驚かせたことは、私が生きている間に起こらなかったから驚いただけで、歴史上では何度も起こっている」と言った。歴史は繰り返さないが韻を踏むとは、よく言ったもので、災害などもそうだが、基本的には「忘れたころにやってくる」。
ここはさらなる混乱に身構えた方がいい。具体的には、貿易戦争だけで済まず、同盟国をも巻き込んだ金融戦争のリスクだ。すでに市場関係者の間では、米国がドル安に誘導する第2次プラザ合意(今回はフロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の私邸にちなんで「マールアラーゴ合意」と命名されている)が取り沙汰されているが、他にも恐ろしいシナリオが噂されている。

東京証券取引所
たとえば、米財務省が100年後が満期のゼロクーポン債を発行するといったアイデアや、外国勢が保有する米国債を長期ゼロクーポン債に交換するというシナリオだ。これらは米国の債務再編を意味し、米国が安全保障を担保する見返りとして同盟国に義務付ける。
さらなる究極のシナリオとして挙げられるのが、米国が各国との「通貨スワップ協定」を破棄するというものだ。この協定が破棄されれば、日本や欧州などが危機時にドルの融通を受けられなくなり、金融機関は極めて深刻な打撃を受ける。協定を破棄せずとも、これを取引カードにして同盟国に要求を呑ますかもしれない。
現にロイター通信(3月22日付)は「市場の緊急時に米連邦準備理事会(FRB)がドル資金を供給してくれるかどうかを欧州の中央銀行や監督当局が疑問視しており、金融関係者らが非公式の会合を開いたことが分かった」と報じた。
第2次トランプ政権の動きを見ていると、こうした究極のシナリオも平然と起こり得る気がしてならない。

関 和馬(せき・かずま) 経済アナリスト
第二海援隊戦略経済研究所研究員。米中関係とグローバル・マクロを研究中。