コラム「マネー侃々諤々」
関 和馬(経済アナリスト)

上海の街中では当たり前のように韓国語が聞こえてくる=関和馬撮影
第12回 「少年よ、パスポートを持て」
先月のコラムで「上海には韓国人が多かった」と記した。近年、韓国では若年層を中心に反中感情が高まっている。そうした意識調査とは裏腹に今の韓国ではちょっとした中国旅行ブームが起きている。
2月15日付の『KOREA WAVE』は「『今年はさらに熱い!』……韓国人の中国旅行、その需要が1年で2倍に急増」と題した記事を配信、韓国で中高年層のものと思われていた「中国旅行」の人気が急上昇していると報じた。
反中感情の高まりと矛盾するこの現象を不思議に思い、上海のマッサージ屋で出会った韓国人女性に聞いたところ、「ビザ免除をきっかけに初めての上海が思ったより良かったからまた来た」と言う。驚くべきことに私が利用したマッサージ屋では私たち以外の客が全員韓国人であった。見た感じではおそらく20~40代の人たちである。
それに比べると日本人は段違いに少なく、上海モーターショーやディズニーランドで少し見かけた程度だ。
初めての場所というのは実際に行ってみると、事前にガイドブックやインターネットで調べていたイメージと絶対に異なる印象を持つ。それが「思っていたよりすごい」と良い方に転ぶか、「予想よりガッカリ」と悪い方向に出るかは実際に行ってみるまでわからない。
個人的には、印象が良い方向に転じた最たる例が中国であった。2010年に初めて上海を訪れたときの衝撃は未だに覚えている。ヒラリー・クリントンが国務長官の時代に上海の発展ぶりを目の当たりにして警戒するようになったと先月にも書いたが、私も同様の感覚を覚えた。事前の印象とあまりに違い過ぎて、メディアがいかに中国の姿を伝えきれていないかを痛感した次第である。それと同時に「自分の目で見るまではわからない」と改めて悟った。
日本人の海外離れが叫ばれて久しい。昨年1年間に海外へ出国した日本人は1301万人にとどまった。これに対し、日本を訪問した外国人は3678万人に上る。
お隣の韓国は昨年1年間で2868万人が出国した。韓国の人口は5168万人と日本の2分の1にも満たないが、日本の倍近い人数が出国している。この差は衝撃的だ。
そもそも日本人は海外渡航の入り口であるパスポートの保有率が低い。たとえば英国では全人口の約9割がパスポートを保有している。その割合は米国が5割、ドイツが8割、台湾と韓国が6割なのだが、日本のパスポート保有率は17.5%でしかない。日本のパスポート保有率は2013年の時点でも24%と、諸外国に比べて低かったがコロナ・ショックを経てその傾向に拍車がかかっている。
その理由としては、よく円安や外国そのものや言葉に対する恐怖心などが挙げられるが、おそらくそれだけではない。日本人に“無関心”が蔓延しているのだ。日本人が根源的に持つ島国の内向き体質もよく指摘されるが、それでは同じ島国の英国との違いは何か。
ネットやSNSが浸透した今、確かに海外の動画を見て行った気分に浸ることできる。情報だってわざわざ現地に出向かずとも得られる量が格段に増えた。だからと言って現地を見る重要性が低下したということではないだろう。
日本のパスポートは、ビザなしで入国できる国が190カ国と世界トップクラスだ。これは先人たちの努力によって勝ち得た地位である。
それを活用しないのはあまりにもったいない。しかも海外に行くと(比べることで)日本の良さを再発見できる。これも大きな魅力だ。
もちろん、海外渡航する・しないは個人の自由である。中国などは固有のリスクもあるため私も積極的に渡航を勧めたいとは思わない(米国は絶対的にお勧めだ)。
それでも先人たちが培った信用力が活用されないこの現状に寂しさと不安を覚えるのである。

関 和馬(せき・かずま) 経済アナリスト
第二海援隊戦略経済研究所研究員。米中関係とグローバル・マクロを研究中。